僕は記憶が消えない

学食には木で出来たアーチ型の窓枠があり、二階から日差しが入るように設計されていていつも目に温かみをくれる。このデザイン性のある食堂に入る度、あぁ美術系の学校の食堂だなぁと気分がよくなった。

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そこで楽し気に食事をしている人たちの中から、作品と食べ物を交換をしてくれた人と、予約してくれていた人たちに転売のことを話した。今後は

「もう作ったモノを交換することは出来ない」

と伝えまわったら、みんな困ったり、残念そうにしてくれたけど

「アプリで買えるようにするから」

と言うと、想像以上に怪訝な反応ばかりされて、ちょっと、いや、とてもムカついた。

みんな安く交換できたから欲しかったのかと思った。学食でうどんを限界まですすって、残っている部分を齧って切り離そうとしている健ちゃんにその話をすると、健ちゃんはブフと笑った。

「そりゃそうだろ。小遣い稼ぎのアテがなくなったんだ。でも本当に欲しい奴は純粋に値をつける。当たり前だろ?」

僕はサンドウィッチを食べたら、思わず溜息が出た。僕の作品を、食べてなくなってしまうサンドウィッチよりも大切にしてくれている人は、どのくらいいるのか、記憶をたどればたどるほど不安になった。

僕は記憶が消えない。勉強には一切役に立たない記憶力だったから完璧じゃないし、自慢はできない。

けど、それでも今まで交換してきた数、対価としてもらったコンビニの食べ物、アプリで売られていた作品を作っていた時の高揚感、全てが脳に蘇る。

「上村君」

ウィスパーで優しくて柔らかな女性の声が後ろから聞こえた。僕は振り返って彼女を初めて目にした瞬間、体がヒリヒリした。

かわいい。

僕が彫っている材木と同じくるみ色の髪が耳の下くらいの長さで、綺麗に一直線に揃えられていて、耳には細いゴールドのワイヤーで作られた、綺麗な花のイヤリングがついている。オフホワイトのワンピースにワインレッドのブーツがよく似合っている。