アッペ①

「バイタル測ってください」

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救急現場での初期対応は、初期研修時代にある程度経験しており、それなりに自信はあった。

「状態は安定しているのでゆっくり行きましょう」

その場にいる看護師さんたちに声をかける。その言葉は自分に言い聞かせる意味もある。周りに声をかけることで自分も落ち着いて対応ができる。

「採血、点滴お願いします」

「点滴は細胞外液で」

「採血は手術前のセットで」

看護師さんに仕事を割り振りながら、同時に身体診察を行う。

「初めまして。外科の山川といいます。よろしくお願いします」

「おね、がいします」

状態は安定しているが、かなり痛そうだ。

「痛いのはどの辺りですか」

「この辺りです」

そう言って患者さんは右下腹部を指した。ちょうど虫垂の辺りだ。

「お腹を少し押さえますね」

お腹を押さえて圧痛がないか確認する。痛みの強い右下腹部を後回しにする。

「ここはどうですか」

丁寧に診察を行う。先入観を持って診療にあたると誤診の元になる。

「ここはどうでしょう」

「イタッ」

本命の右下腹部を押さえた時、患者さんが大きな声を出した。そして腹筋に力が入り、お腹が硬くなった。これは筋性防御といって炎症がお腹全体に波及しているサインだ。

「アセトアミノフェンの点滴をお願いします」

すかさず痛み止めの点滴を指示する。これは急いだほうがよさそうだ。

「すぐにCTに行ってください」

画像診断が一番確実である。術前検査を済ませて、田所先生に連絡する。

「救急の患者さんですが、急性虫垂炎だと思います」

「根拠は何?」

「採血で炎症の値が上がっていて、右の下腹部に反跳痛があって」

「うんうん、それで?」

「熱も38度まで上がっていて、それから……」