患者さんとの会話が途切れた。ギブアップだ。
「虫垂炎に対しては、腹腔鏡下虫垂切除術という手術が第一選択で、その方向で手術の準備をしています。何かご質問はありますか?」
「妻は手術が必要なんですか?」
【人気記事】JALの機内で“ありがとう”という日本人はまずいない
ご主人が心配そうに尋ねてきた。
「虫垂炎なので手術が必要です」
僕はきっぱりと答えた。
「手術せずに治る方法はないのでしょうか」
「抗生物質で治ることもあるのですが、再発のリスクもあるし、手術のほうがスッキリするかなと思います」
適当な言葉が見つからず、稚拙な説明になる。
「でも手術は少し怖い」
「……よくある手術なので大丈夫だと思いますよ」
なんとか手術が必要であることを納得させたい一心で言葉を繋ぐ。
「手術は先生がするんですか?」
患者さん本人も質問してくる。この質問は、「別の先生にやってほしい」という患者さんの意思表示だ。つまり、僕は今のICで森本さんの信用を得られなかったということだ。
「……はい、そうです」
ここで会話が途切れてしまった。ギブアップだ。
「では、続きは私が説明しますね」
田所先生がCTを見ながら、ICを引き継いでくれた。
「この部分が虫垂になります。普通は5㎜くらいの太さなんですけど、森本さんの虫垂は1.5㎝くらいになっていて中に膿が溜まっている状態です。そのため、虫垂が炎症を起こして腫れています。これを虫垂炎というのですが、一般的には盲腸と呼ばれるものです。炎症のデータもかなり上がっていて、これだけお腹が痛いのは強い炎症があるからだと思われます。これだけの炎症があるので、何らかの治療が必要ですが、虫垂炎治療には2通りあります。1つは手術で1つは抗生物質の点滴です」
「手術をしなくても治る方法があるんですね」