猫座敷の裁判
メタタアコを見ると資料のようなものを見ながら、ふんふんうなずいている。首を動かすたびにまたちゃっぷちゃぷと水のような音がした。
「おや、お医者さまなのですね。教養もおありなのにあれま、奥さんと子供さんもいるのに旅行ですか? いけませんねえ、いけませんよ、でも保険には入っていらしたのですよね。それはよかったですねえー」
「あの、ここはどこなんです」
一つ質問するとたくさんの疑問が連鎖してわきあがってきた。
「裁判所です、まあ裁判の出張所と言ったほうがいいですか?」
「はい? 裁判所?」
「そうですよ」
「あなたはいったい誰ですか」
「ここの裁判官です」
「裁判官?」
「おんや?」
メタタアコが言って近づいてきた。
「もしかしてあなた状況を把握していなかったんですか? それは失礼」
と言いながらパイプ椅子を引きずってきた。
「おーすわりください」
「はあ」
言われるがまま椅子に座ると、今度は大きな鏡らしきものを引きずってきた。
「深呼吸してリラックスしてください、驚いてはいけませんよお」
と言って鏡を目の前に持ってきた。
鏡に映ったものを見て自分はギャッと言ってひっくり返った。そこにはもちろん自分が映っていたがただの自分ではない。頭から額にかけて大きな傷が走りシャツはべったりと血に濡れている。