◎多発性硬化症とは?

多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は脱髄疾患の代表的疾患です。再発と寛解を繰り返しながら増悪していく進行性神経免疫疾患で、脳の中にある乏突起グリアという神経線維を取り巻く髄鞘を作る細胞に対する抗体ができ、脳や脊髄、視神経のあちらこちらの髄鞘が破壊(脱髄)されます。

また、脱髄のみでなく神経細胞脱落などの組織障害が発症早期から始まっていることが知られています。軸索や神経細胞は一度障害されると再生が困難です。

感覚、運動、視機能、排尿・排便などが障害され、いろいろな症状が現れます。それらの症状は悪くなったり(増悪)、良くなったり(寛解)を繰り返します。

多発性硬化症は周期的に増悪・寛解を繰り返す代表的疾患です。治療せずに放っておくと、脱髄したところが大きくなり、亡くなった患者さんの脳は硬くなっています(硬化症)。そのように硬くなった脳では考える力・集中力・理解力・記憶力が低下します。

多発性硬化症は日本には比較的少なく(有病率:人口10万人あたり推定8~9人)、欧米で頻繁に(有病率:欧米では10万人あたり推定100人以上の地域もある)起こります。このような有病率の違いには、環境要因と遺伝的要因の関与が考えられています。

一方、わが国では、多発性硬化症に似た同じく中枢性脱髄疾患の視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)という病気が多く、星状グリアにあるアクアポリンという水の輸送蛋白に対する抗体によって起こります。しかし、視神経脊髄炎では認知症はあまり起こりません。