人格の変化が特徴的な「前頭側頭型認知症」

三大認知症と前頭側頭型認知症(ピック病を含むfrontotemporal dementia:FTD)を併せて「四大認知症」と呼ぶことがあります。頻度はアルツハイマー型認知症の1/10以下(数%)です。65歳以下(40~60代)の発症が多く、性差はありません。ときに家族歴を有することがあります。

アルツハイマー型認知症では、大脳皮質全体に障害が起こるのと比べ、ピック病(Pickʼs disease)では文字通り脳の前頭葉と側頭葉に障害(萎縮)が起こります。

なお、ピック病(最初に症例報告したアーノルド・ピック医師に由来)は前頭側頭型認知症の代表疾患ですが、ピック病は病理学的にピック球(ピック小体)を認めるものと定義されました。異常にリン酸化したタウ蛋白が蓄積します(タウオパチー:tauopathy)。ピック病の症状は前頭側頭型認知症のそれと同様であることから前頭側頭型認知症の原型と考えられます。

[図1]前頭側頭型認知症のMRI像
60代後半女性。2年前から記憶があいまいに。家事に無関心・無気力、肉じゃがを作れない。日にちが分からない。めまいがする。朝から起きていられない、ふらふらする。本やテレビを見ていると気分が悪くなってくる。HDS-R13点、MMSE13点。両側前頭葉および両側側頭葉の萎縮が目立つ。海馬の萎縮は認めない

[図2]前頭側頭型認知症の脳画像
左:MRI像、右:脳血流SPECT像。60代女性。お金の計算もできて、買い物に行っても同じ物を買ってくることはない。夫の顔も覚えている。しかし「言葉が分からなくなった」と困っていた。頭部MRIでは両側(特に右側)の側頭葉に萎縮がみられる。脳血流SPECT(3D-SSP)では明らかにその場所の血流が低下していた。アルツハイマー型認知症で特徴的とされる後部帯状回、楔前部の血流低下は認めない。この方は左利きなので、右側に言語機能があるようである

最近の診断基準(Rascovsky Kらにより2011年に発表)では、臨床的には異常行動を中心とする行動障害型前頭側頭型認知症(behavioral variant FTD:bvFTD)と言語障害(喚語困難、反響言語、文法の誤りなど)を主体とする言語障害型前頭側頭型認知症に分類されました。

ピック病の特徴には「性格の変化」が…暴力的になったときはどうする?

初期症状が記憶障害とは限らず性格変化(前頭葉から病変が始まった場合)や言語障害(側頭葉の病変から始まった場合)で始まることがあります。

前頭葉や側頭葉とはいわゆる「人間らしさ」を司る部位で、主に前頭葉では意思、思考、感情を、側頭葉では言語(優位半球)、聴覚、味覚、判断力、記憶を司っています。このいずれか(もしくは両方)に障害が起こるため、ピック病では「人格の変化」、「性格の変化」、「わが道を行く行動」が最も特徴的な症状となります。記憶障害は比較的軽度とされています。

他人の気持ちを思いやることができず、善悪の判断も難しくなるので、万引きや備品の持ち帰りなどの社会的ルールを無視する行為を平気でするようになります。また性的な理性が働かずに痴漢行為をする(品行の障害・脱抑制)、不潔でも気にならないので何日も入浴しない(清潔さと整容の無視・無関心)、気に入らないことがあると周りの人を殴る(共感の減少、抑制の減少、人格変化)、などの言動もみられます。

一方で、ピック病の人には「毎日同じことを繰り返す(常同行動)と落ち着く」という一面もあります。

ピック病の患者さんは暴力的、強迫的、脱抑制的行動にみえますが、毎日同じ道を散歩する、毎日同じ時間に入浴する、毎日食事の後に同じ言葉をかけるなど、「いつもと同じ」行動をとるように働きかけをすれば、無意味に暴れるわけではないのです。

行動・心理症状(BPSD)が強いため、介護者の負担が大きいので、介護者への配慮を怠らず、介護施設への紹介を早めに行うことです。またBPSDに対して鎮静的な薬剤を過剰に使用しないようにする注意が必要です。