第2作『人形』

太郎の待ち合わせの時間から二時間が過ぎていた。ぼくは本屋に行った帰りに丸山公園に行った。

馬鹿正直な太郎は真新しい赤いポロシャツを着て、緊張した顔でベンチに座っている。もう少し待たせてみようかなと思ったが、声を掛けた。

「よう」

太郎は助け船を見つけたような顔でぼくを見た。

「まだ来ないのか」
「うん」
「そういう奴だから、仕方がないよ」
「そういう奴……」
「あいつは、人の気持ちなんて分からないし、ましてや男の純な気持ちなんて理解できないんだよ」

太郎は黙ってぼくを見つめていたが、ぽつりと言った。

「そうだよな……久志はそれほど鴇子と親しいんだよな」
「本当に来ると思っていたのか」
「うん」
「おめでたい奴だな」
「うん」

太郎は俯いたままだ。ぼくは面倒くさくなり、早々に種明かしをしたくなった。

「イッチャエヨ、イッチャエヨ」
「来るわけないだろ、お前が女と付き合うなんて百年早いんだ」
「それはひどいだろ」
「自分のツラ鏡で見たことあんのか……その顔が女と付き合える顔か」

あっけにとられていた太郎は、ぼくを睨み付けた。

「言い過ぎだ! あやまれ」