第2作『人形』
「このごろ、どうかした?」と鴇子が久しぶりにぼくに声を掛けた。
「べつに……」
いつからか、鴇子への返事はこの言葉が口癖のようになっている。
「このごろネクラだぞ」
「だから、何でもないって」
「失恋でもしたか」
「うるさいな」
「昔からの付き合いだ。君のことは何でも分かるんだ」
「分かるって、何が分かるんだ」
「分かるよ。このごろ、声を掛けても無視して通り過ぎるし、何か隠し事してるんだろ」
と鴇子はぼくをじっと見つめて笑った。
「お前さ、太郎って知ってるだろ」
「えっ、あのドンクサ太郎?」
ぼくはうれしくなった。もうひとつの作戦を始めようと思った。
「ひでえこと、言うなぁ。おれの友達だぜ」
「ふーん。で、太郎がどうしたんだよ」
「あいつな、突然告白してきたんだぜ。鴇子が好きだって」
「ウソー、ヤメテヨー。冗談でしょ」
鴇子は笑いながら答えた。
「いや、ホントだ、あいつおれの幼馴染でさ、深刻になっちゃって」
「困ったなー」
「おれからの頼みだけどさ、付き合ってやれよ」
「いや! 絶対! だいたいね、そんなこと、頼んだり、頼まれたりすることじゃない」