第二部 教団~3

思いがけない再会もある。

「風間さん、やっぱり風間さんだったのね」数年前のある日のことだった。楽屋裏で舞台化粧を落としていると、不意に、聞き覚えのある艶のある声がして、風間は振り向いた。

「香奈さん…」

懐かしい。余りにも懐かしかった。風の頼りに、香奈は大学に残って、社会心理学の研究をしていると聞いたことがある。その香奈が目の前に立っているのだ。

十年ぶりに見る香奈には、女子高時代の面影も残っていたが、やや丸みを帯びた顔に、少し憂いのある大きな目がついている。

大人になったな、ぼんやりと風間は思った。

演劇が好きで、仕事の傍ら暇さえあれば見て回っているのだと、香奈は説明した。その日は偶然風間のやっている芝居を見に来て、キャストに風間の名前を見つけてびっくりして楽屋に来てみたのだ。という。

「風間さん、ちっとも変わらないのね」と香奈が言った。「うちの兄なんか、もう人が変わったように政治政治で夢中なのに。なんだか兄を見ているとさびしくなるぐらい」

これをきっかけに二人は付き合いだした。風間は香奈を通じて村上とも再会することになった。今は国会議員の秘書をしているという村上の家に、時々遊びに行く。香奈と二人で行くこともある。

だが、結婚という言葉は、どちらの口からも出なかった。

三つプラス一つの事情がそこに障碍(しょうがい)として横たわっていたからである。

三つの障碍とは何か。