第二部 教団~2

風間と小林の交友関係はF大学に入学してからもしばらく続いた。

風間は当然のことのように演劇ばかりやっていたが、弁論部もやってみないかと小林から誘われたのである。それが風間が弁論部に入ったきっかけだった。

だが、風間と小林は、三年生になった夏から付き合わなくなった。

それにはちょっとしたいきさつがある。弁論部のメンバーと、香奈の友達たちの開いた合コンで、風間は香奈に一目ぼれしてしまった。村上に、君の妹さんと付き合いたいんだが許可するかい?と大真面目に聞いたほどだ。ところが、しばらくして小林が、香奈と付き合っていると言う噂を耳にした。小林とは親しい仲であるし、心の中では恩人とも思っている。風間は、悩んだあげくあきらめ、自分のことを慕っているらしい茜と付き合い始めた。

ところが、小林は夏になると得体の知れないセミナーに出かけてしまい、秋になるとすっかり人付き合いが悪くなって戻ってきた。もう、キャンパスで風間と出会っても、話をしようともしないのである。

一緒にセミナーに行った中条や笠井に何があったのだと聞いてみても、彼らも首を傾げるばかりでわからない。風間はこうして親友を一人失ってしまった。

就職の季節がやってくると、風間は不意に、元の通り孤独癖のある自分を再発見した。将来何になりたいかと聞かれても、なりたいものがないのだ。劇作家か俳優といっても、才能には自信がないし、そうかといって、普通の就職をするのに向いていないと思う。

「当分アルバイトして暮らすよ」そういった風間に、母は泣き父は怒った。

「馬鹿もん、世の中をなめるんじゃない。いいか、大卒はインテリだなどと自惚れとるんだろうが、世の中、それで通用するほど甘くないぞ。俺はしがない会社員だがな、これでも仕事はチャンとやっとる。お前みたいな役立たずはびしびししごかんと使い物にならん。大学ならお前の言う演劇とやらで遊んでいても通用するかもしれんが、世の中で揉まれないと人間は大きくならんのだ。

いいか」定年間近の父は、ここで口調を変えて穏やかに言った。

「会社に入れば、いろいろな経験をする。人脈も出来る。アルバイトをいくらしても、決して出来ないような経験が出来る。ともかく五年間はまともな就職をしてみろ。その時になってそれでもアルバイトの方がよいと言うのならその時は俺は知らん」