「おい、そこにいるお前さん。君は何の仕事をしているのかい?」

「不動産業です」

「不動産? 結構じゃないか。それで君の名前は?」

「板橋玄宗です」

「ゲンソウ? それは、どんな漢字なんだね」

「ゲンは素人、玄人という場合の、クロで、ソウは宗教の宗の字です」

「そう、私の名前は、竹田健三だ」

「ああ、やっぱりそうですか。マドロスパイプを口にしていたので、あの有名な竹田さんであろうと思っていましたが…」

「板橋玄宗ね。まるでお坊さんみたいな名前だな」

「はい、ほかの人からもよく言われるんです」

「君は、不動産屋だと言っていたが、これからは宗教家になるのもいいよ。この丘陵地に、どんどん家は建っても、世の中はお金を追い求める〝すさんだ〟ものとなるだろう。心の拠り所が必要だ。せっかく僧侶のような名前を頂戴しているのだから、お坊さんになったらどうかね」

「じつは僕は迷っているのです。50代の半ばになっても独身であるし、不動産屋を続けていいものかと…」

「そんなら、いっそのこと、仏道に励んだらよろしいんじゃないかね」

「…」

「私みたいな仕事をしていると、とんでもないところにも知り合いがいるんだよ。たとえば、愛知県とか岐阜県にあるお寺にまで繋がってしまっている。跡を継ぐ人が見つからなくて困っているお寺も数多いんだよ。何なら、紹介してもいいよ。まずは何年間か、そこで修行することだね」と言った後で、

「じゃ、その気になったら、私に連絡して頂戴」

と竹田健三は名刺を板橋に手渡した。名刺には、政治評論家、ジャーナリスト、○○記者等々の肩書きが連ねられていた。