京都府

酷暑無双 二〇一六年八月

【第一日目】北野天満宮界隈

「アンタ、正気かッ!」。僕は、思わず叫んだ。叫ばずにはいられなかった。

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女房が、夏真っ盛りの京都に行きたいと言い出したのだ。京都の語り部を自負する僕は、折に触れて、仏教の八大地獄のうち大焦熱地獄とは、夏の京都のことだと女房に言ってきたのだが、うわの空で聞き流していたらしい。

女房は、「この夏の旅行は京都だ」と言って譲らない。「高原の温泉は?」と水を向けるが、「受験期の次男の合格祈願で北野天満宮に」と切り返してくる。

確かに。次男の確実な合格を望むなら、天満宮の九州営業所である大宰府天満宮では心もとない。行くか、次男のために。子供のためなら、地獄へも身を投じる親心のなんと有り難いことか。と、しみじみ噛み締めながらの上洛となった。

太陽が猛り狂っている。バスを降りて数歩で、心が折れる音を聞いた。女房の後をノロノロとついて行く。受験シーズンには、まだ間があるためか参拝客も思ったほどいない。