難解。芸術性。こだわり。
「はい。とても長い一日でした」島崎は笑みを浮かべて言った。
「でも長い一日の締めくくりの酒は格別だ。芹生さん、楽しかったですよ。これからも遠慮なくご連絡ください」
「そう言っていただけるとほっとします。わたしも〆にします。グリーンアラスカはできますか?」とタクちゃんに注文した。
「わたしにできないカクテルなんかありませんよ。でも珍しいものを注文しますね」「ええ。正直まだ味が分かりかねているところです。でも、試してみたい」
「なるほど」と言って、タクちゃんは手馴れた手さばきで仕上げた。
「どうぞ」注がれた艶やかで半透明な緑色の液体を眺めていると、理津子と島崎の作品評が思い浮かぶ。
難解。芸術性。こだわり。
やがてカクテルが語りかけてくる気がした。へーえ、君も僕と同類なんだ。そーか、それじゃ口を窄めずに味わえるね。俺は口に含み転がした。やっぱり口を窄めてしまった。でも、ほんの少しだけ、このくせのあるカクテルの味が分かる気がしてきた。