私のような年配の人間はこのような話にはまったく驚かない。よくある話であったと思う。法令違反の事象をごく普通のことと思うのは問題があるのだが、私が若いころはこのような話はごくありふれたものだったのだ。

こういった話をよりわかりやすく説明した最初の本は、広瀬道貞の『補助金と政権党』(朝日新聞社 1981年)ではないかと思う。朝日新聞社の政治記者であった広瀬は、自民党はなぜ選挙に強いのか、なぜ長期政権を維持できるのかという疑問をもち、綿密な取材を重ね、「自民党の強さは、公の補助金を党勢の拡張に結びつけていく手段の巧みさにあるといっていい」という結論を出した。

広瀬は、土地改良事業費等の農業補助金が国から都道府県に、都道府県から市町村に分配されるが、票もまた補助金と同様に、国から県、県から市町村へと割り当てられることを明らかにしている。自民党は農村部を基盤にしているから農業補助金を活用できた、あるいは、農業補助金によって農村部を確固たる基盤にできたともいえるが、とにかく序章でも触れたように、自民党が農業補助金によって党勢を拡大していったのは疑いがない。

都市部では農業補助金は使えないから、自民党は都市部では弱かったのだといえるかもしれない。しかし、自民党は都市部での集票をあきらめていたわけではない。

広瀬によれば、1972(昭和47)年の総選挙での共産党の躍進に危機感をもった自民党は、翌1973(昭和48)年に「マル経」と呼ばれる小企業向けの無担保無保証の融資制度をつくった。「マル経」は正式名称を「小企業経営改善貸付」という。無担保無保証ではあるが利息もある「融資」であり、当然利息をつけて返済しなければならないので補助金とは言い難い。