公庫の融資、県の補助金交付事務といった実務経験をもとに、日本の金融と補助金の問題点を考察していきます。当記事では補助金をめぐる諸問題について、筆者が語ります。
政治が補助金を利用できるシステムに着目すべき
広瀬が「自民党が補助金を党の拡張に巧みに利用した」といったのは、もちろんまちがってはいない。しかし、そのことに加え、政治が補助金を利用できる社会経済システムができあがっていたことに着目すべきであろう。
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選挙の際に、「現職の強み」という言葉がよく使われる。この場合、「現職」は必ずしも自民党を意味しない。政治家を利用してやろうという目論見の有権者にとっては、自分に利益をもたらしてくれるのであればどの政党でもよいのだ。
グループ補助金や高度化スキームに議員が介在してくることは先に述べたが、あるとき、グループ補助金と高度化スキームの申込申請にあたって複数の議員が入ってきたので驚いたことがあった。複数であったことに驚いたのではない、一名は自民党の議員でもう一名は共産党の議員であったことに驚いたのだ。
しかし、驚いたのは私だけのようで、周りの県の職員に訊いてみたら、グループ補助金以外でも「珍しいケースではあるが、まったくないわけではない」ということであった。つまり、「口利き」は「現職」でありさえすれば政党は問われないのだ。
広瀬は自民党の戦術の巧みさ、悪くいえば狡猾さを強調しすぎているように思われる。自民党はなぜ長期に渡って政権を維持することができたのかという問題提起に対して、それは補助金をうまく利用したからだと広瀬は答えているのだが一方で、その戦術というか技術を自民党は「25年の政権経験から学んだ」とも書いている。意地の悪い見方かもしれないが、これでは「長い間政権にいたから長い間政権を維持できた」と言っているようにも取れる。
政権党が補助金をどのように利用したかを広く知らしめた広瀬の功績にケチをつけるつもりはない。ただ、政権党が補助金を利用することが可能であった日本の社会システムを論じていないことを私は残念に思う。
アメリカにおいては民主党と共和党が、イギリスにおいては保守党と労働党が、ほぼ交互に政権を担当している。これは両国とも明確に「小さな政府」を志向しており、補助金の占めるウエイトは日本に比べ少ないからだと私は考えている。
つまり、伝統的に英米国民は政府に大きな期待はしていない。「現職」を通じて政府から恩恵を被ろうという意識は希薄なのだ。だから、おそらく英米には「現職の強み」はないと思う。
日本は英米と比較すれば「大きい政府」であり、政府は国民にさまざまな恩恵を与えることができるし、国民もまた政府からの恩恵を期待しているのだ。「小さな政府」の国家では頻繁に政権交代があるが、「大きな政府」では政権は長期化する傾向がある。これが広瀬の著書を読んでみて私が考えたことだ。