呼び出されて、俺に殺されるとは思わなかったのか

出立の期限が翌朝まで許されたのが、準備を考慮してか単なる温情なのか、理由は分からなかった。早坂と沼田は敷地内の隅に身を潜め、朝の来るのを待っていた。

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追い出す側も追い出される側も、気が張り詰めていた。追い出す側は二人が逆上して暴挙に出ないか不安だったし、追い出される側は、盛江や川田など血の気の多い連中がなぶり殺しにこないかと怯えていた。

その夜は双方とも眠らないつもりでいた。真夜中頃、泉は竪穴式住居をそっと抜け出し、塀の入り口のところへやってきた。

月明かりに人影が見える。柱の裏に早坂の姿があった。

「来てくれてありがとう」

早坂は言った。泉は黙っていた。彼女は人に見つからぬよう柱の裏に飛び込み、早坂と肩がくっつくほどぴったりと並んだ。

「呼び出されて、俺に殺されるとは思わなかったのか」

泉は黙って早坂の目を見た。

「何とか言えよ」
「これでおしまいね」
「まだはじまってもいないじゃないか」

しばらく沈黙が流れた。目の前に迫る森の闇があたりを静けさで押し潰していた。

突然、早坂は泉の身体を抱きしめた。早坂の広い懐で、泉の細い身体が後ろに反りかえった。このまま締め上げたら折れてしまいそうな華奢な身体。しかし泉は抵抗一つせず、声も上げない。

「俺と一緒に来てくれ」

早坂のかすれた声が泉の耳に届く。泉の身体がピクリ、と反応した。

「俺はお前を愛している。ここの連中はばかばかりだ。あんな連中の思いつきに付き合っていたら、命がいくつあっても足りないぞ。だから俺と――」

泉は腕を折り曲げ、早坂の胸板に手を敷いた。そしてぐっと押しつけて、身を剥がそうとした。早坂は腕をほどいた。二人の間に頭一つ分の空間ができた。

「変わらないのね」

泉はうつむいて言った。

「ボランティアサークルが揉める時は、いつもあなたが絡んでた。あなたはいつも正し過ぎる。それがあなたの価値を下げてしまう。人は正解なんか求めてない、ただ納得したいのよ」
「ふん」

早坂は不敵な調子でこたえた。