自分たちが殺されそうになりながらも、裁判を求めているのよ。

「みんな、ちょっと考えて」泉が声を張って呼びかけた。

「三人は自分たちが殺されそうになりながらも、裁判を求めているのよ。それってどういうことか、みんな分かっているの? 三人は笹見平に秩序だけでなく、秩序を貫きとおす勇気や決断を持ってもらおうと考えているのよ。私たちの住んでいる縄文の世界は、法律もなければ、警察もない。善悪もルールも、全部自分たちで決めて実行しなければならない。それをおろそかにすると、どうなると思う? 力のある人がルールを超えても許されたり、臆病な人がいつまでも意見を言えずに虐げられたり――無茶苦茶になるの。そんなの嫌でしょ? 裁判は、被害を受けた人が罰を主張するだけじゃなくて、訴えられた人が、正しく裁いてもらうためのものでもあるの。そこまで考えて意見を言ってほしいわ」

彼女は涙を浮かべて主張した。誰も反論しなかった。その後再び議論となった。誰が裁判官になるのか。裁判員なら何人で、誰なのか。果たしてそれで秩序が整ったことになるのか。議論は尽きない。しまいには「裁判とはなんなのか」という疑問が呈された。

そしてまた議論はスタート地点に戻った。「だめだこりゃ」盛江が頭を掻いて言った。

「こんなことやっててもキリが無いぜ。林、もうお前が決めちゃいなよ」

「俺もそれでいい。お前はリーダーだ」

岩崎と岸谷が言った。林は泉を見た。彼女のさっきの言葉は理想的ですばらしかった。でも、それを実現するには笹見平の知性は熟していないかもしれない。川田はさっきから中学生の間を駆け回り、意見の調整に奔走していた。林が漏れ聞こえる声に耳を傾けると、「死刑で人を殺したくない」「恨まれたくない」「かといって無罪はありえない」と、大きく三つの意見が出ていた。

「よし、分かった」林は決意した。

「今の状況で笹見平で法廷を開くのは早過ぎると判断したよ」

「はぁ?」一同、拍子抜けしたような表情を浮かべた。

「じゃあどうするんです?」木崎が尋ねた。