俳句・短歌 短歌 医師 2021.01.02 短歌集「花の影」より三首 歌集 花の影 【第9回】 松森 邦昭 医師として、多くの命と向き合ってきた著者が綴る、日常、仕事、家族のこと――。 本書では、著者が趣味で書き溜めた短歌を一冊にまとめた。 季節の歌や旅の歌に加え、本業である医者としての日常や患者との出会いなどに関する歌も収められている。 温かな生命が宿る短歌を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 斗南の地粟さえとれず葦茂り時移り来し今ラムサール沼 【旅の歌】 平成二十六年 *松本・牛伏寺 仁王門金剛にらむその先に紫淡くききょう群れさく *みなかみ町・名胡桃城跡 名胡桃城足もと広く黄金の穂土塁のあざみ一叢あかく
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『標本室の男』 【第8回】 均埜 権兵衛 長身でにやけた三流役者といった風貌の三十一歳の医師は看護師の質問をはぐらかし… 夜半の雨はいつの間にか上がり、翌日も快晴となった。朝陽を浴びて窓の曇り硝子が眩しい程に輝いていた。妻の彰子が起きがけにカーテンを引いていったらしい。居間の方で絵里子のはしゃぐ声がしていた。時々それに応える妻のものやわらかな声が響く。今日はドライブに出かける約束をしていた。天気がよかったら岬巡りをするつもりでいたのだ。窓越しの朝陽を見ていると、目の前に青々と広がる海が見えるかのような気がした。だが…