俳句・短歌 短歌 医師 2021.01.16 短歌集「花の影」より三首 歌集 花の影 【第11回】 松森 邦昭 医師として、多くの命と向き合ってきた著者が綴る、日常、仕事、家族のこと――。 本書では、著者が趣味で書き溜めた短歌を一冊にまとめた。 季節の歌や旅の歌に加え、本業である医者としての日常や患者との出会いなどに関する歌も収められている。 温かな生命が宿る短歌を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 熊野路を歩み倦みたるその時にいかずちひびき霊気地に満つ 神医歌壇 流れこむ湯音聞きつつふりかえる今日の熊野の遠き道のり 維盛の入水も見たか樟の木の夕影黒く補陀落の森 *補陀洛山寺
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『赤い大河』 【第5回】 塚本 正巳 もしかして私と彼を別れさせた自称間男は、男ではなく、女かも?ある人物が思い浮かび… 「ねえ、今どこにいるの。雹がすごい音を立てて降っているんだけど、そっちは?」冬輝は一言、ああ、とだけ答えて電話を切った。同じ雹の音を聞く距離にいながら、同じ子の親でありながら、この人とはもう二度と会うことはない。冬の夜明けを思わせる鋭利な確信が、凍えた心に深々と突き刺さった。何日も部屋に閉じこもり、冬輝をたぶらかした悪意の出所を探し求めた。店内に携帯電話を持ち込んだことはないので、自称間男が過去…