縄文人ユヒトらの集落・イマイ村で、行方不明になっていた林ら3人の生存は確認できた。しかし、彼らはいつ笹見平に戻ってくるのか、それは誰にもわからなかった…。
あいつら、のんびりしてるヒマは無いぞ!
二〇日ほど経過した。
冬の一番厳しい時期は過ぎ、雪の日が減った。季節が遷(うつ)り変わろうとする中、笹見平の若者らは早坂の指揮に従い、仕事に追い立てられていた。
盛江と川田は歯痒かった。仲間を殺そうとした奴の下にいるなんて我慢ならない。はやく林らが帰ってこないか、奴らに罰を下さないか。二人は怒りを隠してその日を待ちわびた。泉も平静を装っていたが、夜になると憤懣と悲しみに取り込まれ、藁の枕を濡らした。
何も知らない連中――特に中学生は、早坂と沼田のリーダーシップを好意的に受け入れていた。二人は見る限り権力欲も横暴さも無く、中学生が理解できないことは分かるまでかみ砕いて教えたし、その明晰な頭脳は憧れの的でさえあった。盛江は危惧した。このままだと林らの存在は笹見平から忘れられてしまうかもしれない。
――あいつら、のんびりしてるヒマは無いぞ!
ある日、ユヒトが食糧を持ってきた。彼は泉と盛江に近寄り、そっと呟いた。「明日、三人が戻るよ」
二人は黙ってうなずいた。晩になり、盛江は川田に伝えた。
「ようやくっすね」
「ああ」
夜、盛江・泉・川田はまんじりともせず、明日がどのような一日になるか、頭の中で空想した。そのうちしらしらと夜が明けて、今日からまた違う日々がはじまるのだと、気持ちを新たにした。
翌日はよく晴れていた。朝仕事を済ませ、みなで広場に集まって昼食をとっていると、塀の入り口から甲高くコーン、コーンと木を叩く音がした。ユヒトが尋ねてきた時の合図である。
「あいつら、昨日来たばかりじゃないか。追い返しちまえ」早坂はそう言って泉に視線を送った。泉は食事を止めて立ち上がった。出迎えに行こうとする格好である。