必要なのは、みんなで守っていく「掟」

岩崎は目を細め、

「傷が癒えたら、俺たち三人で正々堂々と笹見平に帰るよ。そして真実を話す。そうなったらあの二人だって言い訳できまい。俺たちはあいつらみたいにだまし討ちをしたり、卑怯な手は使わない。真っ向からカタをつける」

「真っ向から? 喧嘩なら頭数を揃えておくぜ」

「暴力の話じゃないよ」林は首を横に振った。「岩崎君も誤解するような言い方はやめて。ぼくらが真っ向からというのは、ちゃんと議論して賞罰を行おうっていうんだ。裁判だね。笹見平は五〇人もの所帯だから、人間関係がねじれて揉め事が起きてもおかしくない。そういう時の前例として、きちんとやっておこうってわけさ」

「なんて悠長な奴らだ」盛江は三人の顔をかわるがわる見た。「自分たちが殺されかけて、それを前例にするなんて」

岸谷はほほ笑み、

「なあに、俺たちだってここでずっとボンヤリしていたわけじゃない。イマイ村にはちゃんと掟があって、みんなそれを守って生きている。笹見平も見習わなきゃと、三人で話し合ったのさ」

盛江と川田は日が落ちる前に笹見平に戻った。かなり遅くなったが、詫びも無しに平然と夕食の席に着いた。沼田は怪しんだ。

――あの二人は手ぶらで帰ってきた。服も汚れていない。

早坂に伝えると「おおかたどっかでサボっていたんだろ」と、取り合わなかった。沼田は引き下がったが腑に落ちなかった。

夕食後、盛江は人目をしのび、泉を観光案内所の裏手に呼びだした。そして今日のことを伝えた。

「まさか殺されかけたなんて――」泉はショックを受けた。

「三人には考えがあるらしいから、それに従うことにしよう。それまでは、今聞いたことは絶対秘密だ。寝言にも言うなよ」

「分かったわ」泉は涙を拭った。