若者たちがサバイバル生活を送っている笹見平へ、久しぶりに訪れたユヒトら縄文人の青年たち。彼から手渡された一枚のメモにより、泉晴夏は行方不明になった林たち3人が生きていることを知る。泉はさっそく信頼できる盛江にそれを伝えたのだった……。
「今からイマイ村に行く。黙って俺についてこい」
塀工事が中断して以来、盛江は狩猟採取を担当していた。塀の外に出やすい立場ではある。
「泉も行くか?」
「私は無理よ。畑から離れられない。それに、早坂君の視線もあるし」泉は唇をかみしめた。
「あのいやらしい奴め」
「盛江君が一人で行くのも危険ね。砂川君と行ったらどう?」
「俺以外の大学生男子は任務がきつくて動けないと思う」
「川田君はどうかしら」
「あいつならいいね。キモは据わってるし、俺と気も合う。早坂も持て余し気味だしな」
翌朝、盛江は早坂に会った。近隣の木の実は採り尽くしたから、ちょっと先まで行ってみたいと言うと、生返事で「ああ」と返ってきた。川田を借りることにも、適当にうなずいた。
――ばかにしやがって、生意気な野郎だ!
盛江ははらわたが煮えくり返るようだったがグッとこらえ、川田を伴って塀を出た。
二人は黙々と山道を進んだ。先頭を盛江、後を川田。二〇分くらい歩いたところで、川田が顔をしかめて尋ねた。
「盛江さん、どこまで行くんです? この辺の木、実がなってますよ。ここいらでいいんじゃないですか」
盛江は足を止め、回れ右をして川田と向き合った。
「いきなりなんですか?」
「いいか川田、よく聞け」盛江は声を低くして言った。「今日お前を連れて出たのは、お前を信用してのことだ。今からイマイ村に行く」
「イマイ村? 亡命ですか?」
「違うよ――中学生のくせに難しい言葉を知ってやがる。今日の本当の任務は、木の実拾いじゃあない。黙って俺についてこい」
「大丈夫っすか? 夕方までに戻らないと、早坂さんに文句言われますよ」
「あんな奴、言わせておけばいいんだ」
「ま、それはぼくも同感です」