違ってきた未来
とうとう禅は、バスケットからも身を引いた。
それから数カ月が過ぎ、二人は二年生になっていた。
バスケットコートの中に禅の姿はなかった。膝の調子が良くなくベンチにいた。そしてもはや、かつての輝きはなかった。バスケットボールの選手としてはソコソコうまかったが、天才と言われた頃の切れは戻らなかった。
そして、二年生の夏が終わった頃、禅はバスケットを辞めていた。
「少し自分探しの旅に出たいんだ……」
禅は父親に頼んだ。父親も禅の苦しみが痛いほど分かっていた。だから、反対はしなかった。禅は大学を休学し、あてもなく世界一周の旅に出て行った。
それから二年ほどの年月が過ぎた頃、禅はふらっと日本に帰ってきた。自分を見つけるためと言って、出て行った海外だが、実際にはその土地、土地で遊んでは酒を飲み、金がなくなると父親に仕送りをしてもらう生活をしていた。さすがの父親もしびれを切らし、帰ってくるように命じた。
禅は現実から逃げたかった。バスケットを失った自分の記憶から、バスケットを消したかった。全く縁もゆかりもない人たちと酒を飲み、全てを忘れたかった。
しかし飲めば飲むほど辛くなって行った……そして忘れたいという思いから、かつて輝いていた者が味わう屈辱……それに耐える自信が無かった……だから、日本には帰りたくなかった。
日本に帰ってくると、予想通りだった。
「おお、松本、久しぶりだな! バスケット順調か?」
「禅、最近見なかったけど、バスケットで留学していたのか?」
知らないとは怖いもので、会う人会う人が、そんな質問を投げかけてきた。
「バスケット、辞めたんだ……」
禅は、そう笑顔で答えた。それが何より辛かった。