違ってきた未来

おれはキリギリス、アリにはなれないよ。

「じゃあな、もう行くよ」
「そうか……今日は、ありがとう」

そう笑顔を作った禅を見て、その不安な気持ちが伝わって来た。賢一は部屋から出ようとしたが立ち止まり振り返った。

「なあ、禅……もしも、もしもだけど……」
思い詰めた表情で言う賢一に、禅は笑いながら聞いた。
「なんだよ、改まって?」
「もしも、バスケットが出来なくなったら……」
「おいおい、変なこと言うなよ」
「だから、もしもの話だよ」
「あ、ああ」

二人は、一瞬沈黙した。

「お前は社交的だし、元々頭がいい」
「何だよ、いきなり」

「だから、もしもバスケットが出来なくなったら、アリのように地道に……俺みたいに地道に努力しても、一番になれると思うから……どの世界でも一番になれると思うよ、だから地道にやるのもいいんじゃないかな?」

禅は首を振ると一笑した。

「もしもな、でも俺はお前みたいには生きられない、おれはキリギリス、アリにはなれないよ」
「そうだよな、だから言っただろ“もしも”ってな」
「そうだな」

真剣な顔をしている賢一を尻目に、禅は笑った。

賢一が病室を出て行った後、禅は考えていた。それは、賢一が言ったようにバスケットが出来なくなったらどうするのか?という事だった。禅はしばらく考えていたが……考えても仕方ないと思った。

「アリのように……か……」
そう呟くと苦笑し、首を振った。