運命の出逢い

「お名前は?」

「………」ボーっとしている禅を賢一が覗き込んだ。

「おい、大丈夫か?」

「え? あ、ああ」

我に返った禅がシェリールに聞き返した。

「何でしたっけ?」

シェリールは微笑んだ。

「お名前を……」

「ああ、名前ですね……松本禅、禅です」

「ぜん?」

「あ、座禅の禅と書いて禅です」

「え、凄い名前ですね」

「いや、名前は禅ですけど、煩悩の塊みたいな人間で……名前負けしています」

そう恥ずかしそうに言った禅を見てシェリールは笑った。

「面白い人……」

その次元が違う笑顔は、さらに禅の心を引きつけた。

シェリールに見とれている禅を尻目に、賢一が聞いた。

「何か飲む?」

「じゃあ、水割りを」

そのやり取りを見て、禅は我に返った。

それから、禅とシェリールは楽しそうに話していた。

そのやり取りを賢一は見て見ぬふりをし、ママと世間話をしていた。禅は心から楽しかった。

〝こんなに楽しいのは何年ぶりだろう……?〟

有名女子大学に通うというシェリールは、禅の理想の女性だった。ヨーロッパ人とハーフだという、そのすました顔はドキッとするほど美しかった。しかし、その顔とは裏腹に、笑顔は心のそこから癒されるほど可愛かった。そして、まだ会ったばかりなのに、人の良さと純粋さが伝わって来た。禅は心の中で叫んだ。

〝こんな女性に出会いたかったんだ!〟

禅は完全にシェリールに心を奪われていた。

「二人はどういう関係ですか?」

シェリールのその質問に、禅と賢一は顔を見合わせた。

禅はシェリールを見ると、恥ずかしそうに言った。

「どういう関係? そうですね……アリとキリギリスです」

そう真面目な顔をして言った禅の言葉に、シェリールは不思議そうな顔をした。

「アリとキリギリス?」

禅と賢一は顔を見合わせると笑った。

禅は舞い上がっていた。そして話を続けた。

「いや、二人のライフスタイルがそんな感じです」

「ライフスタイルですか?」

「こいつがアリのように真面目で勤勉で、自分はキリギリスのように華やかに生きていたという……」

「生きていた? もう死んだみたいな言い方ですね」

シェリールはそう言うと微笑んだ。

それを聞いて禅の顔が曇った。

「まあ、昔は華やかだったって事ですよ……」

シェリールは、聞いてはいけない事を聞いてしまった気がした。

そこに賢一が割って入って来た。

「こいつは、華やかな方が似合っているんですよ。ほら、見た目もいい男でしょ? 昔の話はともかく、また違った意味で輝いていますから……それに比べて俺なんか、地味で取りえが無くて……だからアリとキリギリスなんですよ、な、そうだろ?」

賢一の問いかけに、我に返った禅が答えた。

「あ、ああ……」

それを見ていたシェリールは気まずくなった。

「そうなんですか……」

賢一は空気を換えようと、笑顔を作った。

「それはともかく、二人の関係は兄弟以上です、そうだよな!」

「あ、ああ、そうです」

「兄弟以上? すごいですね! 仲がいいんですね」

そう言われて、禅と賢一は顔を見合わせると、照れ笑いをした。賢一はグラスを手にした。

「まあ、今日は飲もうぜ!」

「そうだな」

そして、もう一度みんなで乾杯した。禅はシェリールの事が気になった。

「ところで、何処の女子大学に行っているんですか?」

禅の質問にシェリールは微笑んだ。

「それは……秘密です」

「そう……」

シェリールの笑顔にはぐらかされて、それ以上は聞けなかった。

禅は時間を忘れて楽しく飲んでいた。