「一年だけだぞ、一年で上手く行かなかったら諦めるんだ」
大学でも、禅だけ時間が止まっていた。
同級生たちは四年生になっていたが、禅は二年生のままだった。禅は、もう誰にも会いたくなかった。スターだった自分が、こんなになってしまった情けない姿を誰にも見せたくなかった。
そして大学にも居場所は無くなり、そのまま休学した。すっかり、落ちぶれた禅に父親が言った。
「大学を辞めて会社を継ぐか?」
禅は、まだその気にはなれなかった。
「海外で見つけてきた物があって……会社をやりたいんだ」
父親は、そんな事をしても無理だと思った。しかし親バカと言うか、バスケットを失った禅に、最後のふん切りをつけさせるためにそれを了承した。
「ただし一年だけだぞ、一年で上手く行かなかったら諦めるんだ」
「分かったよ……」
禅は、父親と約束をした。
父親から借金をした禅は会社を立ち上げた。特に何かをやりたいという目標はなかった。ただ、まだ社会に出て、親の会社で働くという気持ちになれないだけだった。
海外で知り合った友人から現地の雑貨や小物を仕入れ、それを卸す会社を始めたが、特にそれを卸すルートもなければ、やる気もなかった。仕方ないので、商店街の外れで、それを売る小売店を始めた。
しかし、ネットでたまに物が売れる程度で、客が来る訳もなく、ただ時間と金を浪費する毎日を送っていた。そして夜になると、また酒におぼれた。毎晩のように……そしてくだらない連中とつるんでいった。