-------母と父-------

ガチャッ

あー、噂の主が帰ってきた。(俺の頭の中だけど)

「お帰り」
「ただいまぁ」

俺の母はフルタイム貿易商社勤務の50代。パッと見若いが、白髪染めサボるとけっこうヤバい。基本、帰りは遅めだけど、4月に異動してから戻りが早くなった。

「仕事どうだった?」
「うん、まあまあ」と、笑う。
「そういえばユウキ、部活決まった?」
「とりあえず軽音」
「あー、やっぱり。バンド組む?」
「まだ、希望の楽器毎に分かれて説明聞いただけ。なんかやたらドラム人数多かったから、俺ベースに変えようかな」
「ふーん。私らの時は慢性ドラマー不足で掛け持ちしたもんだけど?」
「30年以上前だろ、時代が違うわ」
「今やみんなボーカルとかギターで目立ちたがるわけじゃないんだね」
「そりゃそうだよ。ボーカルとかMCも兼ねてるから、けっこう責任重大。ギターも華がないと、ツライし」
「んー、やっぱ大変か。でも、ドラムだってもし下手っぴだと、バンドがショボくなるよね」
「そうそう。ん、そういえば、ひとり、ドラムすっげえ上手い奴いたんだよな」
「一人ずつやらされたん? 男子?」
「女子。叩く前に、いきなりバスドラとスネアのチューニング始めてビビった。学校のドラムなんて、どうせそんないいの置いてないじゃん? いざ叩いてみたら案の定…」
「凄かった?」
「うん。めっちゃパワフル。華奢なのに。ザ・フーのキース・ムーンみたいな…」
「おやおや」
「先輩もオオッてなって、他のパートの連中も集まってきて。でも人だかりがしたら直ぐやめちゃったんだ」
「えー、残念」
「あの子とジャムってみたいから、ベースもありかなって」
「いいね」

俺の両親は、その昔、バンドがきっかけで出会ったベースとドラムのリズム隊。二人とも、もうめったに演らないが、たまにテレビでライブ等を観ると、「あー、いいなぁ…」と、つぶやく母。