-------三緒と新幹線-------
あれ、暗い。今日は俺が一番乗りか? と思ったところに、ポニーテールをぶんぶん揺らして三緒が帰ってきた。
「やったー、間に合った!」
鼻息が荒い。見たいテレビがあるから、友達との遊びを切り上げて戻ってきたのだという。
「別に今見なくても、後でYouTubeで探せばいいじゃん」
「その、わざわざ見る感がいいんだってば!」
いいかげんに結んだせいで結び目のゴムから細い毛束がピョコッと飛び出した頭を揺すりながらめっちゃ笑顔で語る小4。ハンカチも持たず、手の甲で額と鼻のあたまの汗をわしわし拭うガサツな奴。
帰ったらまず手ぇ洗えコラ。将来どっかの奇特な男が、こいつはほっとけないな~なんてアホな庇護欲にほだされてもらってくれるといいんだが。俺なら絶対ヤだけど。
でもそういえば、こいつの能天気、破天荒さに助けられたときもあったな。あれは6年前、ある春の日の、東京駅の東北新幹線ホーム。
「車内でも買えるから! いいって弁当なんて!」
「大丈夫大丈夫、まだ時間あるし、通路混んできたら車内販売で買えないじゃん?」
止める俺に構わず、荷物を網棚に載せたあと、上機嫌でホームに降りていく母。ちょ、待てよ、そんなに時間あったっけ?
腕時計、またこないだみたく遅れてんじゃねーの? いやな汗が、背中に滲む。
ホームで弁当屋を覗いた母が、長蛇の列に諦めて戻ってくる。と、そのとき。ジリリリリリリリリリリ……新幹線のドアが静かにしまった。