- - - - - - - 好きなこと- - - - - - -
腹、減った。
「オバチャン、ねぎまと鶏皮ちょうだい! 塩で」
「おや、久しぶり。食べてく?」
屋台風のカウンター横に、一人だけ座れるスツールがある。
「食べてく」
俺が入ったすぐあとに、女性の二人組が買いに来た。
「いらっしゃいませ。何になさいますか? ももタレ、美味しいですよ」
チビの頃から面白がって時々店番してた。今日は久々だわ。
「えー、おすすめ? それにしよっかなー」
「タレが美味しいんですよ~最高です!」
「フフ、じゃあ、ももとつくね、タレで2本ずつ頂戴」
「ありがとうございます!」
焼き上がった串をタレに浸けて、紙パックにくるくる包んで渡す。
「ありがとうございました!」
オバチャンがニヤニヤして俺を見てる。
「上手いもんだね、将来お店やったら?」
「そう? 接客は好きかもしんない」
なんせ貧乏性だから…と呟いたら、
「なんでタレ勧めたの? アンタいっつも塩しか買わないじゃん。アンタんち、みんな塩だよね」
と笑う。
「いつも塩しか買わないから、他のお客さんにはタレ買ってほしくて。オバチャンのタレ、何回も食べてるから、旨いの知ってるんだ。すっごく時間かけて仕込んでることも。でも俺、やっぱ塩が好きなんだよ。たまに魔が差して、ごめんね、失礼な言いかた、タレにしても、あとでやっぱり塩にしとけばよかったなって思うんだ」
「何? 熱くなっちゃって。べつに好きなもん頼めばいいじゃない」
クスクス笑いだすオバチャン。ホントだ、俺。何、語っちゃってんの? バカ。
「えーっと、変だよね。まぁ、好きに理由はないと。好きなもんは好き」
「なに、ユウちゃん。好き好きって。好きな子でもできた?」
図星。
「…ユウちゃんて言うな」
顔が熱くなるのが、わかる。
「帰るわ」
まだ笑ってるオバチャンを背に、家路を急ぐ俺。食べていくつもりが、持ち帰りになった。
How wonderful life is when you are in the world…君がいるだけで…世界ってこんなに素晴らしい
家に帰るゆるい坂道、Yoursongが頭の中でずっと流れていた。
夜、「若者が本を読まなくなったこととその弊害について」ニュース番組でどっかの准教授がとうとうと語っていた。