長年の夢が叶い、宮廷に召しかかえられることとなった王暢(ワンチャン)。
すべては、彼がかつて人身売買から救い出し、今や帝の妃となった曹端嬪(ツァオたんぴん)のはからいによるものだったと知るのだった。
命を脅かされる恐怖との別れ。
はたして漁門は、私が、宮中に入ることをすんなりみとめてくれるだろうか?
役立たずとみなされていた私でも、消される可能性はすくなくなかった。秘密に気づいた者を、生かしてはおかないはずだ。羊七(ヤンチー)も徐繍(シュイシウ)も、足を切られた女も、それで殺された。
そして、彼らは、人を殺すことに、なんら躊躇しない。
凶器をもった段惇敬(トゥアンドゥンジン)が、そのへんにひそんでいるのではないかと、いつも身がまえていたが、何事もなく、日々は過ぎていった。そして、ある日、湯(タン)師兄によばれた。
「おまえ、正戸になるそうだな」
「え、ええ」
「もう、いいぞ。荷物をまとめて、行くべきところへ行け。ここでの仕事は、もう終わりだ」
さんざん心配したことが、まるで噓のようであった。こんなに簡単で、いいのだろうか?
全財産を背負って、塒(ねぐら)をあとにした。曹端嬪(ツァオたんぴん)の父親からもらった銀五十両と、数冊の書物、一組のふとん、包丁と鍋。
生きている。私は、生きている!
いつ消されるかと、つねにびくびくしていた。漁門は、私を危険分子とみなしていただろう。それなのに、ぶじ脱出できたのは、皇帝陛下の嬪となった、曹洛瑩(ツァオルオイン)の威光のおかげだろうか。禁裏の力を、まざまざと感じた。
見おくってくれる人はいなかったが、ひとりだけ、気にかかる人がいた。石媽(シーマー)である。
運わるく、やとわれてしまったけれども、彼女は私とおなじように、漁門に、うす気味のわるさを感じとっている。段惇敬(トゥアンドゥンジン)や管姨(クァンイー)が、野放しにしておくとは思えない。
石媽(シーマー)は率直な女だ。たてつくような言葉を吐いたが最後、消されてしまうだろう。