九十五歳で
九十五歳で乳ガンの手術
病室でかあさんは私を手招きして
「乳首が無くなったよ
もう私女でないんかねぇ」
「そんなことはないんだよ」と私
後向きにほほがゆるんだ
全身に広がっていく痛みをうけとめ
最後まで自分のことは自分でして
家で息をひきとることを望んだかあさん
痛かったね がんばったね
かあさんは立派でした
写真を拡大 「潮涼」
いまだから、いまになってから、思い出すあの眼差し、あの温もり
いまだから、いまになってから、叶わないことだけど、ただ願う――
母という存在をなくして、心は声なき言葉を語りだす。
失ってから、ふたたび得る。ひとすじの救済への過程。
「かあさん、ありがとう」
第21回 日本自費出版文化賞「詩歌部門賞」受賞作品を連載でお届けします。
九十五歳で乳ガンの手術
病室でかあさんは私を手招きして
「乳首が無くなったよ
もう私女でないんかねぇ」
「そんなことはないんだよ」と私
後向きにほほがゆるんだ
全身に広がっていく痛みをうけとめ
最後まで自分のことは自分でして
家で息をひきとることを望んだかあさん
痛かったね がんばったね
かあさんは立派でした