ブラウスを着て

ブラウスを着て スカートをはいて

ひやけした顔に うすくひいた紅の色

オシャレして お寺にお参りと 老人クラブ

かあさんの唯一のお出かけです

母の日

安いブラウスでも 色がきれいと

喜んでくれたかあさん

「すまないねえ うれしいよ ありがとさん」

小さなバッグでも お寺参りに ちょうどいいと

何度も手に取ってくれたかあさん

でも もういない

歳をとるということは

その歳の人たちの 体力気持ちがわかるということだ

「おまえもかあさんの歳になったら
いろんなことがわかると思うよ」

現実味をおびた言葉が今胸にしみる

海にも山にも

海にも山にも連れ出すことができなかった

海辺の砂浜に腰を下ろし

おにぎりを食べながら

かあさんの子供の頃の話を 聞いておけばよかった

打ち寄せる 波の音を聞きながら

小さな山の中腹に腰を下ろし

ジュースを飲みながら

こんな町になる前の話を 聞いておけばよかった

さわさわさわさわ 葉っぱの音を聞きながら

かあさんのことなんにも 知ってなかったのです