人質は「三億円の田んぼ」……。
世界一の日本酒をめぐり、渦巻く黒い思惑。
『田に毒をまいた。残りの山田錦が惜しかったら、五百万円用意しろ』。
烏丸酒造に届いた一通の脅迫状。見れば一本百万円を超える純米大吟醸酒の元となる田の一角が枯らされていた。捜査の過程で浮上する、杜氏の死にまつわる事件の疑惑。そして、脅迫犯が突きつける、前代未聞の要求とは――。
酔(よ)みすぎご注意。 ふくよかに味わい深い、発酵醸造ミステリーを連載にてお届けします。
何者かによって貴重な山田錦の田んぼに除草剤が撒かれ、500万円の身代金を要求する脅迫電話がかかってきた事件。蔵元内には調査本部が設置され、調査が進められていた……。
この蔵の事情も、なかなか複雑そうだ。
「それは、たぶん義理の父です。怪しい者ではありません」
義理の父というと、最近、秀造と仲が険悪だという当人だ。
「お義父さまですか? 道理で! 勝手知ったる家で、何してるんやって顔してました」
秀造は困惑した風、苦笑いが深くなった。
「義父は、近くのホテルに帰りました。明日、また来るそうです」
「こちらには、泊まられない?」
「いろいろ、ありまして」
「桜井会長やワカタさんは、泊まってるのに?」
「そうなりますな」
この蔵の事情も、なかなか複雑そうだ。
夜も、かなり更けてきている。勝木たちも、一旦引き上げることにし、その旨を伝えて、酒蔵を辞去した。
蔵前の広場は、静まり返っていた。車両が減って、広々として見える。
【主な登場人物】
山田葉子:日本酒と食のジャーナリスト
矢沢タミ子:居酒屋経営者
矢沢トオル:タミ子の息子
葛城玲子:播磨署警察官 警視
高橋 仁:同 警部補
勝木道男:同 捜査一課課長
烏丸(からすま)秀造:『 天狼星(てんろうせい)』醸造元 烏丸酒造 蔵元
烏丸六五郎(むつごろう):同 先代蔵元
多田康一:同 前杜氏(とうじ) 故人
大野 真:同 副杜氏
佐藤まりえ:同 賄い担当
速水克彦:同 新杜氏
富井田哲夫:県庁農林水産振興課課長
松原拓郎:農家
松原文子:拓郎の妹 農家
桜井博志(さくらいひろし):『獺祭(だっさい)』醸造元 旭(あさひ)酒造会長
甲斐今日子:酒屋
黒木 将:酒屋
ワカタ ヒデヨシ:元プロサッカー選手、日本酒プロモーター
スティーブン・ヘイワード:有機認証機関検査官