何者かによって貴重な山田錦の田んぼに除草剤が撒かれ、500万円の身代金を要求する脅迫電話がかかってきた事件。蔵元内には調査本部が設置され、調査が進められていた……。

この蔵の事情も、なかなか複雑そうだ。

「名前を聞いたことくらいはあると思うが、いま国内で流行(はやり)つつある新ドラッグだ。二十代の間で人気で、パーティや運転中に使われて、急速に事故が増えつつある」
「そんな、知りません。脱法ライスなんて、摂ったことない」

葉子は、両肩を手で抱きしめた。首が小刻みに左右に振れるのが、止まらない。

「たぶん、それと知らずに、口にしたんだろう。あの後、どこへ行った?」

葉子は、蒼穹を出てからのことを考えた。が、なかなか出てこない。どこかに寄ったのは、覚えているが、それがどこだったか……。

「もう一杯だけと思って、帰り途に寄り道しました。そう、あの神社の境内に、まだ夜店が一軒だけ出てたんです。純米酒を置いてて珍しいなって、それでお酒を一杯もらって……。そうだ、五平餅を一口」
「五平餅?」

玲子の眼が、鋭く光った。

「どんな味だった?」

葉子は、朦朧としている頭を絞った。

「甘辛い餡がかかってるのは普通で、そういえば、お餅の味がちょっと変わってたっけ……。確か、微かにウイキョウのような苦味を感じました」
「それだ! その夜店に違いないっ!」