玲子の目配せに応え、高橋警部補が脱兎のごとく部屋を飛び出して行った。
「たぶん、もうそこにはいないだろうが、何か手がかりの一つも残ってるかもしれない。すまない、気分が悪いところ。後は、明日。具合がよくなったら、調書を取らせてもらう」
タミ子が、大きくうなずいた。何かに気づいたらしい。細い目を、いっそう細めて、にやりと笑った。
「そうかい、そうかい。なるほどね。あんたの本業は、そっちの方だったんだ。脱法ライスの調査で、こっちに来てたんだ」
玲子は、肯定も否定もしなかった。ただ、口元が微かに緩んだ。
※本記事は、2020年10月刊行の書籍『山田錦の身代金』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
【主な登場人物】
山田葉子:日本酒と食のジャーナリスト
矢沢タミ子:居酒屋経営者
矢沢トオル:タミ子の息子
葛城玲子:播磨署警察官 警視
高橋 仁:同 警部補
勝木道男:同 捜査一課課長
烏丸(からすま)秀造:『 天狼星(てんろうせい)』醸造元 烏丸酒造 蔵元
烏丸六五郎(むつごろう):同 先代蔵元
多田康一:同 前杜氏(とうじ) 故人
大野 真:同 副杜氏
佐藤まりえ:同 賄い担当
速水克彦:同 新杜氏
富井田哲夫:県庁農林水産振興課課長
松原拓郎:農家
松原文子:拓郎の妹 農家
桜井博志(さくらいひろし):『獺祭(だっさい)』醸造元 旭(あさひ)酒造会長
甲斐今日子:酒屋
黒木 将:酒屋
ワカタ ヒデヨシ:元プロサッカー選手、日本酒プロモーター
スティーブン・ヘイワード:有機認証機関検査官