第一章 新兵
初年兵教育
厩舎の清掃が終わり、兵舎に帰ると、食事当番が食事を用意してある。手を洗う暇もなく、「いただきます」と大きな声を上げて一斉に食事を開始する。食事を終えたあとの古参兵の食器の片づけという仕事を獲得するために、必然的に皆早食いになる。
杉井は入営前と比較して自分の食べる速度がほぼ倍になっているのを感じていた。朝食が終われば午前の訓練、昼食を挟んで午後の訓練、訓練が終了すると厩舎の片づけ、夕食をとって、その後は小銃帯剣の手入れ、靴の手入れと衣服の洗濯、九時の点呼、消灯、就寝という型にはまった生活が連日繰り返されることになった。
生活の大半を占める訓練は、まず徒歩訓練から始まる。最初は姿勢である。
「不動の姿勢を取れ」
「あごが出ている」
「背筋を伸ばせ」
「手の指先が伸びていない」
「両膝がついていない」
次々と注文が出され、足の爪先の開き方まで指導される。中には猫背の者、蟹がに股またの者などがいて、列から引っ張り出されて個別の特訓を受けることになるが、もともと本人の責任に帰すべき要素でもなく、これは杉井も見ていて可哀相に思った。
次は歩行であるが、これも、
「足を上げるのに、膝が水平になるまで上げよ」
「歩幅は八十五センチだ」
「手の振り方が小さい」