アリとキリギリス

二人は三年生になり、それぞれの道を歩んでいた。

禅はバスケ部でキャプテンを務めていた。その実力はバスケットに力を入れている有名私立高校からスカウトが来るほどだった。そして、相変わらず女子生徒や下級生のあこがれの的だった。

一方の賢一は家が苦しいため、母親に迷惑を掛けないようにと塾にも行かず、自力で猛勉強していた。そして相変わらず成績は断トツで学年トップだった。一緒に帰るようになった二人は、お互いの愚痴を言い合った。

しかし、どちらかと言うと、禅の愚痴を賢一が聞くことが多かった。優しい禅は、自分のように上手くできない後輩に文句を言えず、いつも賢一に愚痴を言っていた。賢一はそれを黙って聞いていた。

ある日、禅が尋ねた。

「お前、高校はどうするんだ?」
「俺の家は貧乏だからな……あと、お前みたいに取り柄がある訳じゃないから、頑張って勉強して公立高校のトップ校に入りたいよ。お前はどうするんだ?」

「俺か? 俺はバスケットの推薦で、バスケット強豪の私立高校に行くよ」
賢一はうつむいた。

「そうか……才能が有る、お前がうらやましいよ、俺なんか才能がないから、勉強するしか能がない……それで受験に失敗したら終わりだよ」

禅は賢一の肩を掴んだ。
「お前何言っているんだ? 勉強だけが人生じゃないだろ?」