アリとキリギリス

禅と賢一は剛史の事が嫌いだった。実際に何度か金をカツアゲされた。先輩だが、とても君付けでは呼びたくはなかった。賢一は空気を換えようと話を変えた。

「俺たちも、大人になっているんじゃないかな?」
「そうなのか?」

そう真面目に聞き返した禅を見て、賢一は笑った。

「変わらないか?」
「いや、たぶん変わっているよ、少しずつ……」
「でも、まだ中学生だぜ?」
「まあな」

二人は笑った。そして禅が言った。

「お前といると心がなごむよ、俺たち昔から本当に兄弟みたいだな」
「いや、それ以上だよ」
そう言い切った賢一の顔を禅は覗き込んだ。

「賢一、俺たち何があっても一生助け合って行こうな」
「そうだな、何があっても!」

二人は、また顔を見合わせ笑った。賢一は、真面目な顔をすると、歩きながら言った。

「俺たち、まるで正反対だよな……」
「え? 何が?」
賢一は、不思議がる禅を見つめた。

「人間として」
「人間として?」
「そう、人間として」
「………」