賢一は、その言葉を否定するように言った。
「それは、才能を持っているお前だから言える言葉だよ」

禅は驚いた顔をした。
「お前、大人みたいな事を言うな」
「お前みたいに才能が有って、華やかに生きているヤツに、俺みたいな凡人の気持ちは分からないよ」

悲しい顔をして、うつむいた賢一を禅は黙って見ていた。

卒業式の朝、禅と賢一は一緒に登校していた。禅の両親は卒業式に出席したがったが、賢一の母親が仕事で出席できない事を知った禅が、自分の親だけ来るのは賢一に申し訳ないと拒んだ。結局、母親だけがそっと見に来ることで了承した。

学校に向かう途中、禅が呟いた。

「ついに卒業だな」
「ああ」
「俺たちも、それぞれの道に行く事になるな」
「そうだな」

禅は中学最後のバスケットボールの大会で、無名の公立中学を全国三位まで持っていった。その才能を評価され、スポーツ推薦で私立のバスケットボール強豪校へ進学した。

賢一は、自分の努力だけで、有名塾などに通う秀才たちとの闘いに勝ち、公立高校のトップ校に合格した。しかも、本人は知らなかったが、その高校を受験した中のトップで合格していた。