「それはこっちが言いたい。確かにぼくは優秀さ。でも世の中は優秀さで回っているわけじゃない。ばかどもの僻みと妬みが邪魔をする。出来過ぎることはむしろ害悪。いつの世もトクをするのは、要領が良くって顔が良くて、むしろ頭の悪い奴」
「沼田君、話をしよう」
「ヤだね。ぼくはきみみたいな奴が大嫌いだから」
「おい、沼田」
早坂が歩み寄った。
「もう二人殺(や)った。後には退けん。さっさとカタをつけるぞ」
早坂は林の胸ぐらを掴むと、柔道の要領で半身を返し、腰を入れて崖へほうり投げようとした。が、林は早坂の胴に抱きついて抵抗した。
「くそ、てめえ」
林は両足に力をこめ、早坂をじりじりと崖の方へ押しやった。早坂のきびすが地をえぐっていく。このままいけば二人一緒に崖に落ちる。
その時、沼田がたいまつを野球のバットのように振って、林の腰をしたたかに打ち据えた。林は熱さと痛みで反射的に手を解いた。早坂はすかさず蹴りを入れ、林の身体を崖に押しやった。
「あああっ!」
早坂の目の前で、林は崖下に消えた。うめき声と地を削る音がしばらく続き、やがて絶えた。
闇の中を、夜の虫の音が聞える。沼田はたいまつを起こした。
「やっちゃったね」
早坂は下唇を軽く吸って、ペッと唾を吐いた。
「俺たちは殺したんじゃない。殺し合いに勝ったんだ」早坂の目は興奮して煌々(こうこう)と輝いていた。