Chapter6 理想と現実
「お前たちには消えてもらわねばならない」
そばの闇から早坂の声が聞えた。
「四五〇〇年のちの日本のためにも、俺たちが俺たちでいるためにも、歴史の冒涜者には消えてもらわねばならない」
「待って」
林は口の中に生温かく血が広がるのを感じた。
「暴力はいけない。ぼくたちは、話し合いで――」
「話し合いなど必要ない」
早坂は吐き捨てるように言うと、うずくまる岸谷の横腹を何度も蹴り上げた。岸谷は悶絶し身を転がし、蹴り足を避けようとする。
林は息を飲んだ。そのままいったら先は崖だ。
「岸谷君、そっちは危ない!」
呼び掛けも虚しく、岸谷は見ている前で崖に消えた。
「こっちの奴は多少使えるかと思ったが、とんだ疫病神だ」
早坂は岩崎の髪を掴んで引きずり起こすと、みぞおちに蹴りを入れた。早坂は狙っていた――岩崎はバランスを崩し、崖に滑り落ちた。
「あっ……、うあっ……、がっ……」
とぎれとぎれの声が小さくなり、やがて消えた。
「沼田君」
林は地に膝をついたまま声を発した。
「きみなら分かるだろう。こんなことをして、何の得があるんだい?」
「トク?」
沼田はたいまつを林の顔にかざした。火の粉が散り、林の顔をちりちりと焦がす。熱気で息が苦しくなる。
「縄文時代まで来てトクも何もあるかい」
火に照らされた沼田の顔は憎悪に歪んで悪鬼そのものだった。
「ぼくは気付いたんだ。現代にいても、縄文時代にいても、ぼくは相変わらず劣等感のかたまりだってね」
「そんなに優秀な頭脳を持っていながら、何を」