第二章 教育の目的は子どもの幸せ
(5)私が考える「自らの意志による幸せ」
3つめは、「人に喜んでもらうこと、社会に貢献すること」です。先ほど幸せを感じるには、自分の心が充実していることが大切だと書きましたが、それだけでよいというものではありません。
人は大なり小なり、今までの人生で人に喜んでもらえたときに幸せを感じたことがあるはずです。例えば、ミュージシャンも、自分が夢中になって演奏しているだけで幸せなら、ずっとスタジオにこもっていればよいのです。
小説家も同じで、書いたものに自己満足して、自分一人で作品を読んでいればよい。お笑い芸人は壁に向かって漫才をしていればよいでしょう。しかし彼らは、自分の夢中になってやっていることを、世の中に表現しようとします。その原動力の奥にあるものは「人に喜んでもらうこと」でしょう。
幸せは、このような自分と他者との結びつきを通して得られるものです。私たち教師も同じです。
子どもが喜んでくれると思えばこそ、読書や、授業づくりや、行事の準備が楽しいのです。私たちの充実は、子どもがいてこそ、成り立つものです。
『幸福論』で有名なイギリスの哲学者ラッセルは、幸せになるには、自分自身のことばかりを考えて、自分ばかりを愛するのではなく、興味と愛情を自分の外に向けて広げることが大切だと言っています。ラッセル自身も、第二次世界大戦中に反戦運動をして、社会貢献したことで有名な人物です。
フランスの作家、ロマン・ロランは、「自分の魂が救われるか救われないかということばかりにこだわっていれば、救われることからかえって遠ざかる。君が君自身を救いたいなら、人間を救え!」という言葉を残しています。
歴史上の人物が考えに考え抜いてきたことに、このような共通点があるということは、偶然ではないと思います。私は、先人からのプレゼントに思えてなりません。