第一章 新兵

入営

夜の九時になり、点呼が始まった。襷(たすき)を掛けた週番士官が第一班から順番に回ってきた。杉井たちは各自寝台の前に立ち、神尾班長の「気をつけ」の号令のもとに全員直立不動の姿勢を取った。

「第四中隊第五班、神尾軍曹以下総員四十名、衛兵一名、厩当番一名、現在員三十八名、番号っ」

初年兵たちは端から番号を唱えた。

「イチ」「ニ」「サン」「シ」
「もとへ、番号。シではない、ヨンである」
「イチ」「ニ」「サン」「ヨン」「ゴ」「ロク」「シチ」「ハチ」「ク」
「もとへ、番号。クではない、キュウである」

「ヨン」、「キュウ」は砲兵科に特有な言い方であったが、とにかくこの点呼において、末尾ヨンの者、末尾キュウの者が間違うとまた番号もとへ、である。

杉井も多少疲れてきており、こんな簡単なことを間違えないでくれと言いたくなったが、間違える者も相当疲れているのだろう、今日のことを思えば無理もないと思い直した。

五回目でようやく間違いのない点呼ができ、最後の者の「異常なし」の声で点呼完了となると、直ちに消灯就寝となった。きちっと藁布団の中に巻き込んだ窮屈な毛布の中に潜り込むと、杉井はさすがにやれやれという気分だった。

目を閉じると、やがて営内に消灯ラッパが響いてきた。初めて誰も相談する人もいない孤独な生活が始まったという実感からか、あるいはまだ初日とはいえ、軍隊の生活というものは決して楽しそうではないという漠然とした不安からか、そのラッパの音は異様に寂しく感じられた。