ライジング・スター

「これまで創作活動に携(たずさ)わって、幸か不幸か孤独な葛藤を感じたことは一度もありません。わたしにとって創作は常に歓びをもたらしてくれる行為です。たとえそれが涙を誘うような悲劇を創作していたとしても。

つまり、創作の最中に読者が悲劇を味わう顔が目に浮かび、孤独を感じることはありません。なんというか、読者とともに創作している感覚です」

本当だろうか。いや川島ならあり得るかもしれない。サークルでも、いつも楽しそうだった。

「読者とともに創作ですか。それは素晴らしい。ところで今度の新作について少しご紹介いただけますでしょうか」

「はい。今度の作品『ウイズアウト・ミー』はわたしが追い求めているテーマ、『エンターテイメントと芸術の融合』に沿ったファンタジックな愛の物語です。本作でも歓びを感じながら書き上げたので、読者の皆さんも歓びを味わえる作品に仕上がったと自負しております。ぜひご一読ください」

「なるほど。『エンターテイメントと芸術の融合』ですか。わたしもさっそく書店に行きたいと思います。本日のゲストは作家の愛澤一樹さんでした」

俺はTVを消した。しばらく沈黙が流れた。

「もう一杯いれましょうか」
沙希が気を回すように言った。