第二章 一日一合純米酒

(九)

脅迫犯からの二通目、要求状は郵送で届いた。烏丸酒造への郵便は、午前と午後の二回届く。午後の配達は、二時過ぎ。土曜日の午後もいつもと同じ時間。

業務通信や私信の中に、差し出し人のない白い封書が、混じっていた。宛先は、烏丸秀造。タミ子の指摘で、多田杜氏の死が他殺なのが明らかになった。

その捜査が、再開された矢先のこと。岩堂鑑識官が、手袋をして郵便物を仕分け、その封筒を選り出した。封筒の指紋を確認し、首を左右に振る。

「消印は、神戸市内。投函されたのは、昨日です」

百五十万人都市だ。つまり、手がかりにはならない。玲子がうなずくと、岩堂鑑識官は封筒を透かして見てから、ハサミで封を切った。

中から手紙を取り出し、両面を透かすように眺める。ついで薬物を使って指紋を確認したが、再び首を左右に振った。

手袋をした秀造が、岩堂鑑識官から手紙を受け取って開く。文面を見た瞬間、眉が上がり、口をぽかんと開けた。そして小首を傾げると、訝し気な顔で玲子に差し出してきた。