「要求状なのは、間違いないようですが……」

玲子も手袋着用で、手紙を手に取った。目を通すと、短い文面。それは、かなり意外な要求だった。

「五百万円で、月曜の兵庫新聞朝刊に、全面広告を確保しろ」

玲子は目を疑い、もう一度読み返したが、内容は変わらない。書いてあるのは、それだけだった。

「何を言ってるんだ? こいつは」

思わず呟いて、放るように勝木課長に手渡す。一目見るなり、勝木課長もうめき声を出した。

「ゲッ。身代金で、新聞広告を出せやと?」
「広告?」

その場の全員が、争うように要求状をのぞき込んだ。高橋警部補が、スマートフォンで何やら調べると、口を開いた。

「兵庫新聞の朝刊の全面広告は、五百万円出せば掲載できますな」
「ピッタリか」
「犯人、そんなんでええんかいな? 準備させた身代金、全部無くなってまうで。それに、今からで、明後日の朝刊。間に合うのかいな?」
「兵庫新聞なら、まだ間に合いますな」

高橋警部補は、いつでも沈着冷静、博覧強記だ。

「どうしましょう?」

秀造が、困惑したように、誰にともなく尋ねた。

「ホンマ、弱りましたなぁ。身代金なら、犯人捕まえれば戻ってきます。受け渡し時でも、後日でも。それが、新聞社に払うとなると、五百万円戻ってくることは、ありえませんからなあ」

勝木課長は、頭を抱えている。