まりえが、照れ隠しに大笑いし、葉子たちもつられて笑い出した。
「そんただこともあって。あん人は、もろみタンクに近づくときだけは、人一倍慎重というか、臆病だったんだすよ。だから、康一さんが落っこったなんて、今でも信じられねっす。なっ、そう思わないっすか、真さん?」
大野副杜氏が、ハッとして顔を上げる。何か言いかけて、その言葉を飲み込んだ。困ったように、視線をタミ子に向ける。タミ子は、うなずいて見せると、代わって語りかけた。
「ああ、そうだね。わかるよまりえさん。あんたの言う通りだ」
怪訝(けげん)そうな顔に向かって、タミ子は言葉を継いだ。
「事故なんかじゃないんだ」
「?」
「さっき、警察にも話したんだけど」
タミ子が、正面からまりえの目を、じぃっとのぞき込んだ。
「多田杜氏はね、殺されたんだよ。死んでから、タンクに放りこまれたんだ」
その真剣な眼差しに、まりえは真実を悟ったらしい。
「うっ、嘘……」
言葉とは裏腹に、まりえの瞳から、大粒の涙がポロポロこぼれ落ちた。