第一章インドを理解するための基本知識
一、インドは階層社会
インドは、どこに行っても階層社会である。有名な階層としてカーストがあるが、インドの階層はそれだけではない。ヒンドゥー教徒はもちろんのこと、カーストがないキリスト教徒・イスラム教徒の社会でもいろいろな階層を前提に生活している。階層社会であるとともに、多様性に溢れているため、理解が難しくなる。
① いまだに残るカースト制度
インド政府は廃止したと宣言しているが、カースト制度はヒンドゥー教徒の中に今でも根強く生き残っている。数十年前に日本人は学校の社会科の授業でカーストは4つ(バラモン=僧侶、クシャトリア=武士、バイシャ=商人、スードラ=奴隷)と習ったが、それは大きな間違い。
現在は学校でカーストをどのように説明しているか不明だが、元々カーストは職業に付随しているもので実態は数千あるといわれている。バラモン(現地ではブラーミン)ですら何段階にも区分され、下位のバラモンでは特別な宗教儀式には参列できないなどの差別が残っている。
新聞の日曜版に掲載されている、嫁・婿募集の記事にも「当方××のカースト。同じカーストを求む」と明記してあるものが多く、また「カーストにはこだわらない」とわざわざ書いてあるのが散見されるのも面白い。インド人に聞くと「こだわらないと書いているのは低いカーストがほとんどだ」とのことだった。
インド人社会の中ではカーストが一番問題になるのは結婚だろうが、これは後述する。外国人にとってカーストで問題になるのは自宅の雇い人。筆者が2001年11月までの駐在4年半の間に雇っていたメイドはコック(料理のみ)、ハウスキーパー(炊事・洗濯・部屋掃除)、スウィーパー(床拭き・靴磨き・トイレ掃除)の3人だった。
筆者は単身赴任だったので、家庭内の仕事量から言えばメイドは1人で十分にも関わらず、インドでは職業別カーストの意識が強くメイドを1人にすることはできなかった。幸いコックとハウスキーパー(どちらも40・50代の女性)は永年日本人宅で仕事していたのと、キリスト教徒だったのでどちらかが休暇の時には別な仕事もやってくれた。