第一章インドを理解するための基本知識

一、インドは階層社会

② 職業による階層もある

本来職業によってカーストが細かく区分されていたが、地方からの労働者の流入や低いカーストの高学歴者が出てきて様相が若干変わってきている。日本でも1960年代にはお茶汲み、コピー取り、配達などのサービス業務を主としていた社員が居たらしい。

インドではいまだにこの職が残っており、全て男性で女性はいない。彼らをベアラーまたはピヨンというが、事務所ではドライバーよりランクが下になる。

社員の間でのランクでは当然、営業・総務・経理などの事務職がトップになり、通常彼らはドライバー・ベアラーとは昼食も一緒に取らない。ところが、本来低いカーストもしくはスケジュールド・カーストだったが、特別枠で大学を卒業して公務員や民間の事務員になっている人も多くなったため、同じカースト出身の人間でも片や事務職の管理職で、片やベアラーと違う職についているケースもある。

インドにある事務所ビルにはドライバーやサービススタッフ専用の部屋を用意しているところが多い。筆者が勤務していた事務所はベアラーまで含めて30名ほど働いていたが、社員の食堂は1室しか確保していなかったため、時間をずらして上位と下位(?)2組に分かれて食事をしていた。

食事以上に問題なのはトイレで、事務所を設計するときには、ドライバー・ベアラーのトイレは絶対に別のものを確保しなければならない。これはアパートでも同じ。メイドを雇えるレベルのインド人や外国人が入るアパートには、メイド専用の共同サーバントクォーター(トイレ・シャワーなどがある部屋)が用意されているのが普通である。

③ 男女の格差は大きく、結婚は女性にとって死活問題

女性参政権が認められているとは言っても、女性の地位は今でもかなり低い。日本でも男女差別が指摘されているが、インドの差別とは比較にもならない。

女性は結婚して家庭に入るのが大前提とされているため、教育を受ける機会も少なく、インド全体の識字率は男性の79%に対して、女性は54%しかない。最近でこそ高学歴の女性も増えて、銀行・ホテルなどに進出して管理職になってきているが、一番大きな差別はやはり結婚に関連するもの。

カーストが最大の問題であることは間違いなく、新聞記事に、息子15歳(ブラーミン=高位カースト)と恋人15歳(ジャート族=少数民族)が親に殺された事件が載っていた。カーストと同様にインド政府は廃止を宣言しているが、いまだにダウリ(持参金の制度が残っている。

カースト・職業などに応じて半年から数年分の収入に相当する現金もしくは金の装飾品を用意しなければ、女性は結婚もできない。2001年の新聞でも、ダウリが少なかったと言って新郎の親族が新婦をいじめ殺したとの記事が何度か載った。

都会ではダウリなしで恋愛結婚するケースも増えつつあるようだが、恋愛結婚の比率は都会でも20%程度といわれている。地方ではほとんどが親の斡旋結婚(アレンジド・マリッジといい、当人同士は結婚式まで会えないケースもある)のため、ダウリは女姓にとって文字通り死活問題となる。

無事に結婚できたからといって安心するのはまだ早い。不幸なことに夫が死んでしまうと残された女性(まさしく寡婦となる)には何の権利も認められない。

寡婦は既婚の徴であるシンドゥール(前髪につける赤い印)や赤いビンディー(額につける印で既婚者は赤)は当然やめさせられるし、寡婦としての存在自体が不運・不吉な徴であるとして装飾品をつけることも許されない。