第一章 発達障がいに悩む人たち
社会に馴染めない大人たち
上司はショックを抑えながら、すぐにカウンターの担当者に掛け合いました。しかし、担当者からは、残念な言葉が返ってきます。
「この便は、すでに搭乗手続きは終了してもうドアを閉める段階です」
「なんとかなりませんか?」と彼は、必死に額の汗をハンカチで拭ふきながら担当者に詰め寄りました。
しかし、カウンターの担当者は、「なんとかなればしているのですが、今回は、もう無理です」と返しながらも、別の便を探してくれました。結果、他に間に合う便はもう見当たりませんでした。
想定外の事態です。こういう場合、たいていはパニックに陥ってしまいますが、上司は東京駅から新幹線を使うという次なる手段を冷静に考え、タクシーですぐに行こうと彼に指示しました。
ここまでは、上司にも問題がありました。搭乗15分前までに手荷物検査に入るべきだったのです。彼と会う約束を優先したところが落とし穴でした。
また、メールが届くかの確認も事前にしなければならなかったのです。タクシーは、東京駅まで急いでくれました。しかし、結局会議のプレゼンに間に合う列車には乗りそびれました。
そこで上司は、直接行くことは諦(あきら)め、関東支店からインターネットのテレビ電話を使い、会議に参加することにしたのです。急遽(きゅうきょ)新幹線で関東支店へ向かうことになりました。なんとか会議の開始に間に合い、プレゼンのスライドを彼が準備し、スライドをめくりました。
そこで上司は、再度絶句したのです。画面に映し出されたのは、練り直す前の古いスライドのものだったのです。それでも上司は、皆の前でうろたえてはいけないと、平然と古いスライドでプレゼンを続けました。上司の頭の中は怒り心頭でしたが、部下のそういう行動に慣れていたこともあるのでしょう。